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 これはもう、にわとりが先か卵が先かということになってしまうけれど…。例えばドイツでヨーゼフ・ボイスが出てきてあれだけ社会的な影響力をもった。アメリカのウォーホルもそうだけど、ああいうヒーローが出現すればそれが一つの突破口になるかもしれない。それはある意味でアーティストの側に責任を押しつけるようなものだけれど、それが一番効果的な変革の第一歩ではないかと思う。日本のアーティストで誰がいるかというと、日本画では沢山いるんですよ。平山郁夫とか東山魁夷とか、非常に有力な人。政治力も持っているし。

━━ええ、そうですね。

 人脈、金脈もあるし。いわゆる現代美術の分野ではほとんど居ないわけです。例えばかつて岡本太郎がそういう立場だったと思う。ただあの人はこの消費社会の中で「変なおじさん」で消費されちゃって(笑)ひょうきんな老人になってしまったから、非常に可愛そうだなと思う。ああいうオピニオンリーダーみたいな人が出現すればいいのだけれど、ただ、日本のマスコミも、そういうのが出てきたら出てきたで、いろい ろ面白おかしく書き立ててアーティスト=変な人みたいなレッテル貼って、結局駄目にしてしまう。

━━アートとは村田さんにとってどういうものですか?

M それを語れたらこういう仕事をしていないので…。もし一言で言うならば、アートというのは人間の創造性を拡大していくものだと思っています。創造性というのは2つあって、イマジネーションとクリエイティビティ。イマジネーションは頭の作業で、クリエイティビティは手の作業。その2つが合体した創造性を拡大していくもの、それがアートだと思います。だからアートは、科学や技術やその他の分野にも影響を及ぼしていく。経済を発展させるし、文化を豊かにする。その最も根源的な人間の能力を拡張するもの、それがアートだと思う。だから、最も大切なものである一方で、すぐに何か結果が見えるわけではないと思うんです。

━━見えるものではない。

 だからアートが無くてもとりあえず十分にやっていけるわけですよね、人間は。戦後の日本は多分そういうふうにやってきたと思う。アート、特に現代美術というものがそれほど必要とされずにここまで伸びてきたわけだけれど、それには限界があると思う。やはり人間の創造性の部分を刺激し、どんどん拡張してくれるようなアートが無ければね、日本の経済成長や技術力などは、言ってしまえば借り物みたいなものですから。自分で創造したというよりも、どこかで創造したものをちょっと改良して手際良くまとめたもの、それだけでは限界がある。いずれ日本は経済的にも行き詰まることは目に見えていると思う。もっと根源的な部分をどんどん活性化させていかなくては、先端的な、目に見える部分での変化も起こってこないだろうと。だからアートが活性化しても、すぐに目に見える部分では跳ねかえって来ないということです。それはいずれ10年後20年後あるいは100年後に返って来るだろう。よく考えるのはゴッホのことで、彼が一人いただけでオランダという小さな国が世界中に知られるようになった。で、ゴッホの絵1点が100億円するというのはすごいことで…。

━━すごいですよね。

 

 

 
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